この日、この時を大切に!

私の住む北海道にもようやく待ち焦がれた初夏が訪れました。

川を流れる雪解けの水、土の匂い、草の新鮮な香り、辺りを飛び回る鳥たちの心地よい鳴き声、頬を撫でる暖かい風、道端に咲く色とりどりの綺麗な花々、身体全身で初夏を感じることが出来る、今この時を有難く思う今日であります。

 そんな陽気を感じ始めた頃、お檀家さんとの会話の中で、二年前に「乳ガン」を宣告されたというお話を聞きました。

これから手術と言う時に大事にしていた手鏡を落として割ってしまったそうなんです。さすがに手術前ですから、嫌な前兆とでも言いましょうか、世間では不吉な予感と思ってしまうでしょう。しかし、その奥さんは「手鏡が私の身代わりになってくれたんだわ!だから大丈夫!」と、その出来事をとらえたようです。ただ、息子たちに心配かけたくないから、手術が終わるまで、その割れた手鏡を大事にハンカチに包んで閉まっておいたそうです。それから無事に退院し、真っ先にご自宅のお佛壇の佛さま、ご先祖さまに手に合わせお念佛をお称えしたと言います。

何気なく受けたガン検診。だけど、後に結果は「乳ガン」でした。「ガン」って言われた時、「死」と言うものが頭の中をいっぱいに埋め尽くした。「まさか…」「何で私が?」という思いでしばらくは、気分の沈む毎日を過ごしていたそうです。

そんな、ある日に、ふとお佛壇の前に座り「私ももうすぐそっちに行くのかな?」

「死ぬって苦しいのかな?」などと考えていた時に、以前お寺から配られた会報を手に取った。そこには、「お念佛を申せば、臨終の際に阿弥陀さまがお迎えに来て下さる、そして阿弥陀さまの造られた西方極楽浄土に生まれる事が出来る」と。

「そこでは、先立たれた両親に再会できる」と書いてありました。

「両親に再び会えるなら、一つでも多く楽しい土産話を作らなくちゃ」という気持ちに変化したそうです。

「今までは、生きていて当たり前、死ぬなんてまだまだ先の事と思っていたけど、ガンを宣告され、死の恐怖を知って、初めて生かさせていただく有難みを知った」と仰います。そして「今を楽しく生きるのよ」とお佛檀を見つめながら仰っていました。

 我が行く先(お浄土)を見定めることで、今を生きる力となるのがお念佛です。どうぞ、日々の生活の糧にお念佛をお称えする日暮らしをお過ごしになってみてはいかかでしょうか。

2012年05月20日
北海道小樽市 浄土寺 長尾省行