涅槃会について

 二月の行事と言えば、バレンタインデーがあります。日本では女性が男性に愛情の告白としてチョコレートを贈る日として、とても賑わう日であります。最近では、お世話になった人や友達同士で贈り合うことも一般的になってまいりました。「チョコレート業界の陰謀だ」と、毎年のように冗談めかして言われるほどに、日本ではお祭りのように定着しております。前日は、準備に忙しい方がたくさんいらっしゃることでしょう。
 私にとっても「二月十三日」は忙しい日となります。とは言いましても、作っているのはチョコレートではなく、「二月十五日」の涅槃会(ねはんえ)に撒くお団子でございます。

 涅槃会とは、佛教をお開きになられたお釈迦様がお亡くなりになられた(入滅)日を二月十五日とし、お釈迦様の遺徳追慕と報恩のために、全国のお寺で執り行われる法要でございます。
 私のお寺では紅白のお団子を作り、それを檀信徒の皆様に向かって撒く、「だんごまき」という少し変わった行事を行います。
 お釈迦様の遺骨を巡り、お釈迦様に帰依されていた八つの国や部族間で争いが起きたが、ドーナというバラモン僧が『耐え忍ぶことの徳をお説きになられた、お釈迦様の遺骨を巡って争うことはよくありません。我らは共に喜び合って仲良く分配しましょう』と仲裁し、人々はその言葉に従って平等に遺骨を分配した。」という説話に倣い、お寺に供養されたお米を粉にして、佛舎利(お釈迦様の遺骨)に見立てたお団子を、檀信徒の皆様に配るというものでございます。そんなわけで、私の涅槃会の思い出は、檀信徒の皆様とお団子を作ることが大半を占めておりました。朝から檀信徒の皆様と一緒に半日かけてお団子を作り、次の日は団子を袋詰めして、当日に参詣された檀信徒の皆様に向かって撒きます。小さい時は涅槃会の意味も分からないまま、夢中になって団子を丸めておりました。檀信徒の皆様と一緒になって楽しく参加できる行事でありました。

 涅槃とは、ニルヴァーナという言葉を音写したものであり、煩悩の火を吹き消した状態という意味であります。また、煩悩を消し、その苦しみから逃れた境地、つまり、悟りの境地をさします。それは、いつまでも健康な体や、無限の命を手に入れるといったような超人的なものではございません。
 悟りを目指すための一つに「諸行無常(この世の全てのものは、常に移り変わり、不変のものなどないということ)」を真に理解することがございます。そんなことは当たり前じゃないか、と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし自身を顧みてみると、自分にとって満足のいく状態がいつまでも続くと信じ込んでいる、あるいはいつまでも続いてほしいと願ってしまうことが普通ではないでしょうか。その思いが苦しみを生む原因となります。ですから、この世のものは移り変わるものだと心得て、一つ一つの物事にとらわれないことが、苦しみを生まないことにつながるのです。
 しかし、これだけでは煩悩は消えず、悟りは開けません。苦しみから逃れられないのです。お釈迦様がされたように、出家をし、社会生活や人とのつながりを捨て、大変に厳しい修行を積むことで、煩悩を消し去り、悟りの境地に至ることが出来るのです。
 とは言いましても、お釈迦様のように、すべてを捨て修行することは、今の時代では困難であります。ましてや、悟りを開くなどということは、到底出来ないことでございます。
 涅槃会が無事執り行えるのは、檀信徒の皆様のご協力というつながりがあるお蔭でございます。私たちは、煩悩を自分の中に抱え込みながらも、社会とつながった生活を送らなくてはなりません。

 そんな私たちが、苦しみを逃れ救われる佛教の教えはあるのでしょうか。お釈迦様は、観無量寿経の中で、さまざまな修行を説かれていらっしゃいますが、最後に十大弟子の一人である阿難尊者に、
 「汝好(よ)く是の語を持(たも)て。是の語を持てとは、即ち是れ無量寿佛の名を持てとなり。」
と、他のたくさんある修行ではなく、「南無阿弥陀佛」と阿弥陀様のお名前をお称えする、「お念佛」を勧められました。お念佛は、「念佛を称える者を必ず極楽浄土に救い摂る」という阿弥陀様のご本願にかなう唯一の修行であり、どんな人にもできる、極楽浄土へ救われるための修行でございます。また、極楽浄土は、「涅槃の城」とも言われ、苦しみのない、悟りの境地なのでございます。

 この教えを、長い修学の果てに善導大師の「観経疏(かんぎょうのしょ)」を通して見出されたのが、法然上人でございます。法然上人は、「この世で悟ることのできない凡夫(ぼんぶ)である私たちが救われる道は、阿弥陀様の本願を信じて、極楽往生を願い、ただひたすらに『南無阿弥陀佛』とお念佛をお称えする他はないのだ」とお示しくださっています。
 今年の涅槃会も、檀信徒の皆様にお手伝いに来ていただきました。行事に一緒になって参加できることに感謝いたしまして、皆様と共々にお念佛に励んでいきたいと思います。

合掌

2014年02月16日
富山教区浄土宗青年会 村井正道