ただ一向に念佛すべし

 始めに、東日本大震災でお亡くなりになりました多くの方々に念佛回向させて頂きます。

 あの日から二年半が過ぎました。震災直後から、全国の諸上人ならびに檀信徒の皆様、有縁の皆様には、岩手への温かいご支援を賜りました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 津波被害が甚大な岩手県沿岸部では、少しずつではありますが災害復興公営住宅が建ち始めるなど、目に見える形での復興が進み始めております。

 岩手教区浄土宗青年会では、皆様からの御支援、そして教区内の諸先輩方の御力をお借りしながら、今も県沿岸部でサッカーやバレーボールの試合を、被災者の方々と共に応援させていただこうと、パブリックビューイングを定期的に設置し、復興支援を継続しております。少しでも被災者の方々に寄り添い、その苦しみの一端を共有し続ける事で、物質的にも精神的にも支援をさせて頂いているところでございます。

 また津波被害に遭われた御寺院の諸上人方も、地域の先頭に立って昼夜を問わず力強く復興への道をお進みになられています。そんな諸上人方のお手伝いをさせて頂く事で、私ども若い浄青会員は支援の在り方を学ばせて頂いております。

 しかしながら一方では、今でも津波の爪痕が色濃く残っており、多くの尊い命が失われた事をはっきりと思い描かせる光景が多く残っていることも事実です。無論、大勢の浄土宗のお檀家様もお亡くなりになりました。被災者の方々の心の傷は深く、未来に希望を見出せず下を向く方も少なくありません。支援に行かせて頂く度に、これでよいのかと反省し、同様に残された御遺族に対して、浄土宗僧侶として一体何をすべきなのかと考える日々でもあります。

 この世は何が起きるか分かりません。今日が無事だとしても明日大丈夫であるという保証はどこにもありません。愛する人が突然にいなくなってしまうこと、今まで築いてきたものが一瞬でなくってしまうこと、平和な日常が180度悲しみに変わってしまうことなど、震災後支援に行かせて頂き、まざまざと見せつけられました。

 阿弥陀様は、その様な私達を救う為に、本願を誓われた佛様です。阿弥陀様の本願とは、「南無阿弥陀佛とお称えすれば、誰でも必ず極楽に往生することができる」というものです。また、南無阿弥陀佛とご回向すれば、震災で亡くなった方々も同様に、極楽浄土にお救い頂けるのでございます。

 なんといっても私達にできることは、阿弥陀様の本願であるお念佛の御教えをしっかりとお伝えすることです。『一枚起請文』の中、法然上人のお言葉にもあるように、

『ただ一向に念佛すべし』

であります。この世に残され、大切な人を失った苦しみの中にいる御遺族に対して、「先立たれた方々と、再び阿弥陀様の西方極楽浄土で必ずお会いができる、同じ極楽の蓮の上で『倶会一処(くえいっしょ)』できるのですよ。極楽に往生された方は、残された私共を見守っていて下さるのだから、何も心配はないのですよ。亡くなった方のために、また、自分も極楽に往生させていただくために、精一杯のお念佛をお称えしていきましょう。」ということを、自らが信じてお伝えし、ご供養のお念佛を、共にお称えし続ける事が、浄土宗の僧侶としての使命と感じるところです。

 御遺族の皆様には一刻も早く安らぎが訪れ、勇気をもって復興に向かって頂けるよう願うばかりですが、実際に被害に遭われた方々にとって、その傷が癒えるということは難しいことなのかもしれません。さらには、日に日に日本中から震災の記憶は薄れていくような気がいたします。風化していくことのないよう、皆様には、せめて三月十一日には東日本大震災を思い出して頂き、お手を合わせて、「南無阿弥陀佛」とお念佛をお称え頂ければ幸いでございます。
 震災で亡くなられた多くの方々が阿弥陀様にお救い頂きますよう、私達も極楽浄土で「倶会一処」させて頂くためにも「南無阿弥陀佛」とお称えさせて頂きましょう。

至心合掌

2013年09月16日
岩手教区浄土宗青年会 吉水晃教