天皇殿

法然上人との出会い

 私が住んでいる奈良市内で、多くの観光客がお参りされる寺院の一つとして東大寺が挙げられます。
 その東大寺本坊の奥に聖武天皇がまつられている「天皇殿」があります。
平素は非公開ですが、毎年5月2日聖武天皇御命日法要日のみ、東大寺の山内にある寺院が入殿されると聞きます。

 2年前になりますが、東大寺で行われた全日佛青主催の千僧法要に参加した折、「天皇殿」を特別に公開して頂きました。聖武天皇の立派なお像に驚かされ、また元々東大寺の鎮守としてあった手向山八幡宮にまつられていたお像を廃仏毀釈の砌(みぎり)にこの場所に移されたという、東大寺の知られざる歴史も聞かせて頂きました。そして私にとって思いもよらぬ感激の出会いがありました。

 それは天皇殿の左脇壇に一つのお位牌を見つけたのです。お名号を中心として、右側に聖武天皇をはじめとした東大寺に縁のあった歴代天皇、左側に源空(法然)上人、俊乗坊重源(しゅんじょうぼうちょうげん)上人と、東大寺に縁のあった浄土宗のお上人たちを記したお位牌でした。
 ご存じの通り、鎌倉時代に平重衡によって東大寺が焼かれた後、再建のために法然上人に勧進職の依頼があったのですが、土木建築の才があったお弟子の重源上人にその役を託し、復興に寄与されたのです。また法然上人は、復興途中の東大寺において、お念佛のみ教えを説かれたこともありました。おそらくそのようなご縁もあって、法然上人のお位牌がここにまつられることとなったのであろうと考えられます。

 私たち浄土宗の青年僧は、ご縁のある方々に、極楽浄土に往生して頂きたいとお念佛をお勧めしています。なぜならそのみ教えは、法然上人が東大寺をはじめとする様々な場所で、そのご生涯をかけて弘められたみ教えに他ならないからです。
 「天皇殿」での法然上人との出会い。約800年前に思いを馳せ、お念佛のご縁でつながっていることをひしひしと感じました。

 お念佛とは、阿弥陀様が「南無阿弥陀佛と称えるものは、すべて極楽浄土に迎え取る」と本願にお誓い下された、この上ない佛縁(=お念佛のご縁)です。しかし、「縁無き衆生は、度し難し」の言葉通り、お念佛のご縁は、私たちからそれを求め、「南無阿弥陀佛」とお称えする「思い」がなければ、たとえ佛様といえども、どうすることもできません。

 「必ず極楽へ生まれさせて頂こう」と信じ称えれば、その時点から、阿弥陀様のお慈悲を頂戴いたします。それは力とも、喜びともなって、いま私が生きていくためのお念佛になるのです。

 そうして、やがて来るべき今生最期には、阿弥陀様のお迎えで極楽浄土へ往生させていただくことを、素直に深く信じて、日々の念佛精進をして参りたいものです。

南無阿弥陀佛

2012年02月01日
奈良教区浄土宗青年会 興善寺 森田康友