日々がお念佛の再出発

 今年ももう終わりを迎えようとしています。この一年を振り返ると、本当に多くのことがありました。皆様の中にも嬉しかったこと、辛かったこと、それぞれに色々なことがあったと思います。そして何より皆が悲しみ心を痛めたことは、東日本大震災ではないでしょうか?
 震災から1カ月が過ぎた頃、私も静岡の青年僧と共に、復興のお手伝いへ行ってまいりました。そこで見たこと、感じたことは、とても言葉で表せるものではなく、ただただ人の儚さ、この世の無常、自分の無力さというものを、まざまざと思い知らされました。

 どんなに今の幸せを祈っても、どんなに平穏な人生を望んでも、想像できないことが起こることもあります。大切な人との別れもいつか必ず訪れます。今あるこの私の命が、明日にはなくなってしまうこともあります。命尽きた後の世が、不安であっては本当の幸せは得られません。後の世が幸せであることが明確であればこそ、毎日を精一杯生き抜くことが出来るのではないでしょうか?

 そんな私たちの「後の世」を本当の幸せにするために、佛様となって下さったのが阿弥陀様なのです。
 阿弥陀様はこんな私たちを救うため、永く永い時間、悩み考え、私たちを救い導くためのお浄土を求められました。そして、
 『ありとあらゆる者達が、心の底から西方極楽浄土を深く信じ、往生浄土を願い、たとえ十遍でも、心から「南無阿弥陀佛」と称えたならば、どんな者でも必ず救う。もし救う力が得られなければ私は決して佛となりません』
 と、お誓いを建てて下さいました。そしてその願いを成し遂げるために、私たちには考えられないほどの永い永い間、厳しい修行を重ねられ、ついにその願いを成し遂げられて、私たちのための佛様となって下さったのです。

 心の底から往生を願い、声に出して「南無阿弥陀佛」と称えたならば、後の世は必ず西方極楽浄土へ救って頂けるのです。命尽きた後に、どこへ行くのか分からないのでなく、また苦しみ迷いの世界へ行くのでもありません。お念佛を称える者は、同じく「南無阿弥陀佛」と称えて先立って行かれた愛しい方が待つ、西方極楽浄土へ間違いなく救って頂けるのです。これが法然上人のみ教えです。

 その法然上人の800年大遠忌が、今年10月に、約1カ月にわたり浄土宗総本山知恩院で盛大に執り行われました。私も知恩院に詰め込みでお手伝いをさせて頂きました。そこで改めて感じたことは、「悲しみや苦しみを抱き生きている私たちだからこそ、お念佛しかないのだ」ということでした。
 期間中は、本当に大勢の方が足を運んで下さり、共にお念佛を声高らかにお称え頂きました。それは何よりも有難いことでした。

 しかしこれで終わりではありません。阿弥陀様はこれまでも、そしてこれからも常に私たちの称えるお念佛の声を待って下さっています。法然上人800年大遠忌を再出発とし、これから少しでも大きなお念佛の声が響き渡ることこそ、お念佛のみ教えをお示し下さった法然上人が、何よりも喜んで下きることではないでしょうか。今日からお念佛の日暮らしを再出発して頂き、来年1月25日の法然上人801回忌をお迎え下さい。

 またこの日には、「同時同行念佛会」(=法然上人の御忌法要を全国一斉に勤める法要)が各地で勤められます。私のお寺でも御忌法要を勤め、静岡の地より約70名の檀信徒と共に参加させて頂きます。場所は違えども、法然上人が示し残して下さった阿弥陀様のお念佛が、全国各地で響き渡っている喜びを自身の励みとし、念佛同行者同士、皆で一緒に心からお念佛をお称えいたしましょう。そしてこれからも、自信を持って前を向き、お念佛と共に日暮しをお送り下さい。

 皆さまの心からのお念佛の声が、この先少しでも大きく響き渡ることを願いながら、今年最後の「青年僧のお話」とさせて頂きます。

南無阿弥陀佛

2011年12月16日
静岡教区浄土宗青年会 西福寺 川村良元