親しき人に導かれて

 私はどんなご縁でお念佛のみ教えに導かれたのか?

 改めて自分に問い直してみた時に、祖父母の二人の顔が脳裏に浮かんできます。
 祖父は私にお念佛のみ教えを気づかせてくれました。また、祖母は私にお念佛の有難さを教えてくれました。

 祖父は幼い頃から、私を大変可愛がってくれました。その祖父が、心筋梗塞で突然亡くなったのは、私が19歳、大学2年生の時でした。突然の祖父との別れ、家族の誰もが予測していませんでした。落胆や動揺の中で、祖父の通夜と葬儀が勤められました。
 その時は、唱えられるお経やお念佛の意味をあまりよく分かっていませんでしたが、それでも、「亡くなった祖父のためにお経をお唱えしたい。お念佛をお称えしたい」と、自然に称えていました。
 周りを見ると、ご参列の方々も手を合わせて、一心にお念佛をお称えになっていました。そのお姿にとても感動しました。

「皆さんが祖父のために心からお称え下さっているお念佛。それには一体どんな意味があるのだろう?」

 私がお念佛のみ教えに関心を持ったのは、この時が初めてでした。

 その後、お念佛のみ教えを詳しく学び、お念佛とは、西方極楽浄土にまします阿弥陀さまがご自身で選ばれた行いであること。阿弥陀佛を信じて、「南無阿弥陀佛」のお念佛をお称えすれば、必ず極楽浄土に往生できることを知りました。しかも、極楽浄土で大切な方々ともう一度、再会できることも・・・。 
 「自分が阿弥陀さまを信じ、お念佛すれば、可愛がってくれた祖父に極楽浄土で再会できる」お念佛のみ教えをとても有難く思いました。

 そうしてお念佛信仰にご縁をいただき、お念佛を称え続けていた中で、祖母との別れがありました。
 祖母は生まれつき病弱で、若い時には「20歳まで生きられない」とまで言われていたそうです。それでも3人の子どもを育て、私を含めた7人の孫にも恵まれた、86年の人生でした。晩年の10ヶ月程は、ベッドで寝たきりの生活を余儀なくされました。

 それは亡くなる1週間前のことでした。
 突然寝ていたベッドから左手の人差し指で床を指差して、

「そこに水が流れとる。3人ほど見える」

とつぶやきました。
 「3人って、一体だれ?」祖母に質問しましたが、その時は「わからん。わからん」と言うだけでした。

 阿弥陀さまは、お念佛をお称えした者が最期臨終の間際を迎える際には、沢山の菩薩さまと共に必ずお迎えに来て下さる、とお経に説かれています。
 私は、この時祖母が目にしたのは、阿弥陀さまと一緒にお迎えにきてくれた亡き夫(私の祖父)と両親の姿ではなかったかと頂いております。そして、この時は「わからん。わからん」と言っていた祖母でしたが、まさに臨終のその時には、阿弥陀さまのお迎えを頂き、この3人の姿をはっきりと目の当たりにして、心安らかに極楽浄土へ旅立っていったと信じています。

 祖父に続いて、祖母との別れを体験しましたが、祖母との別れは、祖父と較べると、少しは落ち着いて受け止めることができました。なぜなら祖父によって導かれたお念佛のみ教えが、確かな信仰となって私の支えとなっていたからです。

 お釈迦さまが私たちにお示し下さった、阿弥陀さま・極楽浄土・お念佛のみ教え。それを私たちに余す所なくお伝え下さったお方こそ、他ならぬ法然上人です。私たちは何の幸いか、この人生において、法然上人がお伝え下されたお念佛のみ教えにご縁を頂きました。

 法然上人800年大遠忌の御正当にあたる今年。改めてお念佛の有難さを受け止め、今後ますます共にお念佛に励んでまいりましょう。

南無阿弥陀佛

2011年10月01日
石川教区浄土宗青年会 宝幢寺 高田光順